よく行くスーパーの特売日は、いつも以上に多くの人でにぎわう。
お買い得品を吟味しながら店内を進むと、ひと際賑わうコーナーがあった。
何事かと思い近寄ると、その日のお買い得品の特大のメンチカツのコーナーに多くの高齢者が群がっていた。
皆、トングとプラスチックパックをもって、自分の番を待っている。
小動物を捕食する肉食動物のごとく、体を乗り出し、獲物を物色するような姿が異様だった。
年を重ねると、肉や揚げ物の脂っこいものはあまり好まなくなると聞く。
小食になるとともに、胃もたれや胸やけなどが起こりやすいからだという。
たしかに実家の両親も揚げ物や肉などはほとんど食べなくなった。
もともと、肉より魚派だというのもあると思うが、今は脂っこいものはほとんと食べないという。
正月などに帰省すると、孫のためにから揚げやエビフライなど買ってきてくれる。
そんなことでもないとわざわざ食べないらしい。
「たまに食べるとおいしいわね」と言いながら一番小さいものを一つだけ口にする。
やはりあまり好まないのだろう。
そんな両親を目にしていたため、そのスーパーでのメンチカツに群がる高齢者の姿が不思議だった。
高齢者は脂っこいものは好まないというのは私の偏見だったのだろうか。
それとも、普段食べなくなった揚げ物を目にして食欲がわいたのだろうか。
もしかしたら、本当は好きだけど、面倒な揚げ物をする気力がなくなり、食べなくなるのかもしれない。
そんな想像をめぐらせながらスーパーを回った。
考えるうちに、私もあのメンチカツが気になりはじめ、せっかくだから買っていこうと、総菜コーナーに戻った。
もう一個も残っていなかった。
恐るべし高齢者パワー。
自分で作ることも食べることもほとんとないメンチカツだが、今はあのメンチカツが食べたくてたまらない。