換気のために窓を開けていたとき、ふわっと漂ってきたのたはタバコのにおい。あわてて窓を閉めた。
お隣のご主人が庭でタバコを吸っているのだろう。
今日は休みなのだろうか。こういう日は一日気を付けていなくてはならない。
隣家は夫婦共々タバコを吸っていて、こうして時々タバコのにおいが部屋にまで入ってくる。
共働きで日中は二人ともいないことが多いせいか、それほどタバコが気になったことはないのだが、忘れたころににおいに襲われる。
マンションのベランダに出て吸う人達がホタル族と言われ迷惑がられているのは知っているが、それは戸建てでも変わらない。
夫婦の一方だけではなく、夫婦そろって吸うのなら家の中で吸えばいいのに。なぜわざわざ外で吸うのだろう。
壁が汚れるから?服ににおいがつくから?子供やペットに影響があるから?
なら吸わなければいいのにと思うのだが、なかなかそうもいかないのだろう。
私は若いころ、タバコのにおいが好きだった。そしてタバコを吸う男性にも心惹かれることが多かった。
タバコを吸う仕草や佇まいが大人の色気に溢れていて魅力的だった。
だから当時つき合っていた彼氏がタバコを吸うのは少しも嫌ではなかったし、むしろ歓迎だった。かっこいいと思っていた。
それがいつからだろうか。タバコが嫌になったのは。タバコのにおいにひどく嫌悪感を抱くようになったのは。
私自身は昔からタバコは吸わないし夫も吸わない。妊娠をきっかけに仕事を辞めると、周囲にタバコを吸う人はいなくなった。
タバコのにおいをかぐことがほぼ無くなった。タバコの存在がないのが当たり前になると、ほんの少しのタバコのにおいにも敏感になった。
妊娠したことで子どもへの害の心配や、タバコを吸わない人達にも影響がある「受動喫煙」といった情報も嫌悪感を抱かせる要因だったようにも思う。
隣家のタバコ。本音をいえば、もう少し気を遣ってもらいたい。吸う場所を変えてもらえれば我が家ににおいは入ってこないかもしれない。
しかし言えない。言うつもりもない。窓を開ける季節でなければあまり気にならない。
なにより、お隣さんはいい方達だ。何のトラブルもなくずっと平穏に暮らしてきている。
だから何も言わずに我慢しようと思っている。
タバコの気配を感じたら隣家に気付かれないよう、嫌味にならぬよう、そっと窓を閉めればいいだけなのだ。
今の世の中、何が起きるかわからない。ほんの些細なきっかけで大きな隣人トラブルになる可能性も捨てきれない。
それならば我が家が我慢すればいい。この先も平穏に暮らすためにはそれが一番いいと思っている。